ROAD TO 笠寺~名古屋嬢の奇跡~ チームしゃちほこ@日本武道館
去る8月31日(水)、夏が終わりを告げようとしているこの日に、日本武道館にてチームしゃちほこの「5年目5公演5万人ライブ」の3公演目である「しゃちサマ2016 真夏のPOWER BALL」が行われた。2年前の2014年8月28日、全く同じ場所でライブを行った彼女たちだが、当時とは環境も状況も全く違うライブだと、彼女たちは話していた。いわく、「2年前は勢いだけで登ってきたステージ。今回は、ここでやる意味と重みを理解した上で臨むステージ」らしい。
前日、さらには当日のリハーサル時まで構成や演出に微調整を加え、とにかくこのライブにかける熱い思いが伝わってきたライブ前。あとはその思いをいかに昇華してライブに臨めるかが勝負の鍵。そんな中、時計の針が開演5分前を告げるとともに、客席の1階席を贅沢に使って360度にも渡って敷きつめたスクリーンから、この日の物語は始まった。
なんと、楽屋から5人が出てくる様子をリアルタイムで捉え、スクリーンに映し出したのだ。円陣を組む様子、また緊張の面持ちとともにスタンバイ場所へと向かう様子、その“生感”がそのまま視覚へと飛び込んできて、いよいよ始まるライブへの期待と緊張がさらに膨らむ。そして、時は来た――。
オープニングのSEとともに板付き、1曲目はこのライブのタイトルにもなっている、発売したばかりのニューシングル「ULTRA 超 MIRACLE SUPER VERY POWER BALL」で会場をぶち上げに来た。のっけから100%。いや、120%だっただろうか。いきなりのフルスロットルに戸惑う暇もなく、スローダウンの“ス”の字を片時も見せることのないこの曲で、会場ボルテージは上がって上がって、上がりまくった。
初っ端から完全燃焼してしまったのではないかというくらいの熱気の中、今度はスクリーンにお馴染み竹内力氏が登場。しゃちほこのメンバーをジャングルへと導く。そしてまんまと導かれるように2曲目「Shanga lang」、そして3曲目「ケモノノハナミチ」へと続く。この2曲は、まさにジャングルの道を歩いて行くしゃちほこを表現していた。そして段々、ライブを観ているこちらも、ステージ上の5人と一緒にジャングルを歩いているような錯覚を起こし始める。一体このあと、ジャングルの山奥で何が待ち受けているのだろうか。そんなゾクゾク感ばかりが背筋を走り始めていた。
ようやくジャングルの道も中盤に差し掛かろうかというところで、続いて繰り出されたのは「じりじり夏活委員会 feat. しまじろう」。しまじろうがステージ上に登場し、キュートに歌い上げる5人(+1体)を眺めながら、夏休みの最高の思い出にしたいという願望が、じりじりと確信に変わっていくのを感じた。そして、最初のタームのラストを飾ったのは「抱きしめてアンセム」。これまでまったりとジャングルの道を歩いてきた流れから一変、ようやく目的地にたどり着いた喜びを表すかのように、イントロの激しい振りコピ大会が始まる。それはまさに祝いの歌、“The anthem”に違いなかった。しゃちほこの楽曲の中でも1、2位を争うくらいのアゲ曲。それをこの段階ですでに放出することで、より一層この後の展開に期待が高まる。
どうやら正解だったようで、5人が一旦ステージから捌けた後、ジャングルの奥地へとたどり着いた映像がスクリーンに映し出される。日も暮れ始めているようだ。そのままイスが6つ用意され、しゃちほこの5人とともに新たなゲストがアコースティックギターを抱えて登場。アカシックの奥脇達也氏だ。ということはーー。会場中の「ゴクリ」という唾を飲む音が聞こえたかと思うほどの静寂に一瞬包まれ、次の瞬間アコギの音が会場中に響き渡る。「ベイビーミソカツ」のアコースティックver.だ。アコースティックならではの、ひと言の歌詞を噛みしめるように感情を込めて歌う5人。日本武道館というジャングル奥地で、最後の夏の夜の宴が始まりを告げた。
そこから宴はメンバーのソロ曲、ユニット曲コーナーへ。最初は伊藤千由李のソロ曲「泣いてなんかいないよ」。バラードな曲調と必要最低限のギター音によって、彼女のキレイな歌声が何倍にも透き通ってジャングル中に響き渡る。特に感じたのは、彼女の表現力の成長っぷり。声色の変化、声量の変化、表情の変化によって、この曲の細部にまで感情が行き届いていた。“曲が生きている”。そう感じさせるほどの伊藤千由李の歌唱力は、アイドル界でも屈指なレベルへと成長を遂げていた。
続いて、ラジオのチューニングノイズとともに急にラジオのトークコーナーが始まり、「RADIO CBC」とタイトルコールが入る。そしてステージ上には、坂本遥奈と大黒柚姫が登場。どうやら、初披露のユニット曲のようだ。そんな中、ピアノサウンドとともにかわいらしいメロディーラインが鳴り響く。タイトルからはまったく想像のつかない、ゴリゴリのアイドルソングだ。「私がセンター」を彷彿とさせるような王道アイドルチューンを、坂本と大黒の2人が目一杯の笑顔で届けてくれた。曲のラストにはCBCラジオの宣伝が歌詞に入り、見事にオチをつけた。
曲が終了するや否や、秋本帆華と咲良菜緒の2人がリフターで2階席の高さまで上がり、「翼を授けてグローリア」を披露。真反対の1番遠い位置にいながらも、まるで隣にいるかのような息の合いっぷりを見せる2人。翼を授け、背中を預けながら歌う2人が神々しく光って見えた。この曲は、いつでも2人の絆を再確認させてくれる。そしてそのまま全員がリフターで上がり、「明け星」を披露。ジャングルの空に星が浮かぶくらい、夜が更けてきたことを意味していた。
そして今度は、坂本遥奈が「小さな夜のうた」をソロで歌唱。彼女の末っ子らしさが抜群に詰まった、とてつもなくかわいらしい楽曲だ。サビの飛び跳ねるようなリズム感のメロディーが、より一層それを際立たせていた。秋本にも伊藤にも、この曲は歌えない。360°のステージを楽しそうに跳び回る坂本だけしか歌えない、至極のメルヘンソングだ。舞台は小さな夜を終え、本格的なジャングルの危ない夜へと移り変わる。
ここで流れ始めたのは、ジャングルの夜の祭典の映像。今までのソロコーナーの宴は余興だと言わんばかりに、祭りは始まろうとしていた。そして三たび映像後に5人が姿を現し、歌い出したのは「眠れナイNIGHT!」。良い子はとっくに寝ているであろう時間もおかまいなし。誰1人としてジャングルにいるファンを眠らさないつもりだ。もちろん、こんな楽しいお祭りを見過ごすはずがない。“眠れナイ”じゃない、“眠らナイ”である!
そのまま流れるように「SPACEひつまぶし supported by ZEN-LA-ROCK」と「首都移転計画」を続ける。ねっとりした曲調で、まるでディスコにいるかのように錯覚させられるほどだった。そして極めつけはお次の「J.A.N.A.I.C.A.」。まさにディスコソングそのもので、パラパラが合いそうなイントロのメロディーとともに、会場中が夜のジャングルで踊り出した。そのときふと見つけたのが、ステージからバズーカを放つメンバー。会場にサインボールを発射するサプライズだ。しかし、咲良の放ったバズーカは見事に客席のない1階のスクリーン上へ。舌を出しながらテヘッと笑うお茶目な彼女の笑顔を見逃さなかった。しかし、それすらも演出の範囲と思えるほど、楽しい空間が広がっていた。このまま夜中遊んでいてもいい“J.A.N.A.I.C.A.”! 誰もがそう思い始めていた。
すると突然、これまでのディスコソングとは一変して、「Wow Oh! Oh!」と「OEOEO」で会場中が叫び倒すパートへ。ひたすら踊り狂ったら、次は叫び、吠え散らかせ、ということらしい。スクリーンには「吠えろ!」の文字が幾度となく映し出される。ステージ上の5人も、これでもかというぐらい吠える吠える。「OEOEO」の落ちサビでは、秋本が今日一番の大声で「ぶどうかーん!」と吠えた。
その後、「天才バカボン」でネジを外してバカになり、ジャングルの夜のお祭りもラストスパートへ。ここから、怒濤のアゲ曲が続く。まずは「ザ・スターダストボウリング」。曲前には咲良が「武道館をぶっ壊して出禁になっちゃおうぜー!」と煽る。それに呼応するように、会場の熱気は一気にヒートアップ。日本武道館にバカでかいボウリング玉を何度もぶつけているかのような盛り上がりを見せる。間奏のセリフでひたすら煽り、ラストのサビ前では秋本が「武道館では泣きませーん!」とセリフを変えて叫んだ。できればこのセリフ、伊藤に言ってほしかったという感情を抱いた人は少なくないのではないだろうか……。
そのまま一気に「そこそこプレミアム」、「エンジョイ人生」、「乙女受験戦争」で突っ走る5人。最後の力を出し切って、とにかく盛り上がって、楽しんで、完全燃焼し尽くすんだという5人と会場中の気持ちが一体となり、ジャングルの熱気は最高潮に達した。「乙女受験戦争」落ちサビで「日本武道館を走っていくんだー!」と叫びながらステージ上を走りまわるという謎の言動も、テンションがメーターを振り切ってしまった故だろう。
本編ラストは、再びの「ULTRA 超 MIRACLE SUPER VERY POWER BALL」。ジャングルの夜のお祭りは、夜空に特大のPOWER BALLを打ち上げて幕を閉じた。
その後、またもやスクリーンに映像が。日本武道館にてPOWER BALLを回収し、横浜へと向けたパレードを見つける様子が流れた。そして舞台はアンコール、先ほど見つけたパレードが、ステージ上に現れる。ここで新曲「パレードは夜空を翔る」を披露。オーケストラ演奏のような壮大な音楽とともにパレードが始まり、ジャングルの夜が明けようとしている様子が垣間見えた。そんな壮大な曲に圧倒されずに力強く歌い上げ、ここで初めてのMCへ突入。自己紹介とともに、今日の感想、そして今後の意気込みを1人ずつ語っていった。中でも印象深かったのが、秋本の「私たちはこんなところでは終わらない」という言葉。おっとりした声の中にしっかりと野太く通った1本の筋を、この言葉から容易に感じ取ることができた。チームしゃちほこは、まだまだ前へ進む。そう感じさせてくれたひと言であった。余談ながら、伊藤のMC時のファンとのやりとり(ファン「泣かないで!」。伊藤「泣いてないし! 誰? 覚えとけよ!(半ギレ)」。)も、ある意味印象には残っている。
MC後は、両親への感謝を歌った「ワタシノユウキ」を、“ファンに向けて”の意味を込めて優しく歌い上げる。手書きの歌詞をスクリーンに映すことで、より一層5人からの感謝の気持ちが胸に響いた。そしてアンコールラストは、「JOINT」。ジャングルでのお祭りを最後の最後まで楽しもうという思いのもと、再びジャングル中が熱気に包まれる。しっとりではなくアゲアゲな状態で終わる、これがチームしゃちほこのライブなのだ。これにて、日本武道館でのライブは終幕……と思いきや、まさかの展開が。
実はこの日このタイミングで、ステージ上の5人だけでサプライズを企んでいたのだ。日本武道館に詰めかけたファンだけでなく、(1人を除く)全スタッフへのサプライズをしかけた。その内容とは、ある曲を最後にどうしても歌いたいというもの。ただし、音が鳴るかは分からない。PA卓はすでにバタバタ状態だ。そして咲良はこう語った。
「今日の武道館が本当に大切だったっていうことを忘れないでほしい。そして、大人の力を使わないでメンバーだけで伝えたい何かがあったから、それをこの曲に託します」。
そう話し、アカペラで彼女たちがゆっくりと歌い出したのは、「colors」のサビ。最後に大黒が「あざやかに塗りつぶすのさ」と歌いきった直後に、鳴り響いた「colors」イントロのギターサウンド。その瞬間、会場中が割れんばかりの歓声に今日一番の鳥肌に包まれた。
この曲で彼女たちが何を伝えたかったのかをあえて言わなかったのには、きっとワケがある。この日日本武道館に足を運んだ全員が、その意図を必死に考えていることだろう。しかし、そのどれもが正解でないかもしれないし、はたまたどれもが正解かもしれない。それできっといいに違いない。だって、“僕たちの色色 まざりあって ほら、新しい色”なのだから。
【セットリスト】
M1. ULTRA 超 MIRACLE SUPER VERY POWER BALL
M2. Shanga Lang
M3. ケモノノハナミチ
M4. じりじり夏活委員会 feat. しまじろう
M5. 抱きしめてアンセム
M6. ベイビーミソカツ(アコースティックver.)
M7. 泣いてなんかいないよ(伊藤千由李)
M8. RADIO CBC(坂本遥奈・大黒柚姫)
M9. 翼を授けてグローリア(秋本帆華・咲良菜緒)
M10. 明け星
M11. 小さな夜のうた(坂本遥奈)
M12. 眠れナイNIGHT!
M13. SPACEひつまぶし supported by ZEN-LA-ROCK
M14. 首都移転計画
M15. J.A.N.A.I.C.A.
M16. Wow Oh! Oh!
M17. OEOEO
M18. 天才バカボン
M19. ザ・スターダストボウリング
M20. そこそこプレミアム
M21. エンジョイ人生
M22. 乙女受験戦争
M23. ULTRA 超 MIRACLE SUPER VERY POWER BALL
EN1. パレードは夜空を翔る
EN2. ワタシノユウキ
EN3. JOINT
EN4. colors